理想郷

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霞屋から出た薬売りは行き先を決めないまま、ふらふらと歩く。 カタカタカタカタカタカタ……。 何処へ行こうと背中から小刻みに聞こえる音は止まない。 「本当に…可笑しな場所だ」 ふと周りを歩く人々を見る。 金を持っていそうな者は少ない。 遊郭は大金が必要だ。 女と寝るにしても何度も通わないといけない。女達に馳走を奢らなければならない。 だがここにいる者達の姿を見れば……。 すすれた服を身に纏い、髭を生やした浪人、旅人、農夫、坊主ばかり。 本来、坊主は女を不浄の者とし寺山で修行を重ねる。 女との交わりを禁じ、交わるなら男と決められている。 故にこの、女性と身を交わす遊郭には坊主は入ることかなわない。 『違法だらけの遊郭でありんすから――――』 あの花魁、夕霧の言葉が耳につく。 .
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