理想郷

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「……何を隠している?」 夕霧の言葉も気になるが、薬売りにはもう一つ気掛かりがあった。 それはこの遊郭街で流行のように“ある言葉”が……蔓延していること。 「いやぁ~ここは極楽だ。本当に“天狗”に攫われて良かった」 「こんなに幸せでいられるのは“天狗様”のおかげだ」 行き交う人々が次々と口にする 。 「……天狗……か」 カタカタカタカタカタ……。 「そこの綺麗な兄さん。泊まる宿はお決まりかい?」 宿の前で着飾った女が入口の柱に寄り添って薬売りに声をかける。 「いえ……丁度、探しているところで……」 それを聞くと、女はニヤリと笑った。 「それだったら、うちに泊まっていきなよ。……退屈させんからさ」 「それはそれは……実に、面白そうだ……」 薬売りは女に誘われるがまま暖簾をくぐり宿の中へと入っていった。 .
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