光と闇の童話

2/7
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
空を見上げると、丸い僅かな範囲しか見えない。 その僅かな空に揺らめくのは青い月夜。 神を名を呪いながら、 彼は此の奈落の底で唄う――。 微かな記憶…。 宵闇の森の中。 羽ばたく事を夢見る鳥籠の中の白い鳥。 彼女を外の世界へ連れ出したのは月光の夜に窓辺へ降り立った緋色の瞳を抱く銀髪の少年。 「そこ、足元に気を付けて」 「うん」 優しい少年の声。 応えるのは柔らかな少女の声。 「大丈夫?恐くないかい?」 彼の心配を余所に少女は期待に胸を膨らませていた。 「ええ、それより私、今とてもドキドキしているわ! だって森は、世界はこんなに広いんですもの!」 「じゃあ、今日はとっておきの場所を教えてあげるね。行こう!」 少女は差し伸べられた手を掴んだ。 「うん!」 彼にとっては庭のようなこの森を、二人は奥へと進んでいく――。 一瞬のうちに彼は自分が闇の中へ落下していく感覚に陥り、我に返る。 二人はあの森で何をしていたのか…。 彼女は誰なのか? 顔も思い出せない。 名前すらも…。 ふと、彼は自分が何かを抱いているのに気付いた。 赤と黒のドレスを着た金髪の色白な人形。 「君は?」 彼は当然のように人形に声を掛けた。すると、その人形はゆっくりと目を開け目覚める。 「…私ハ、エリーゼ。忘レチャッタノ?メル」 当然のように投げ掛けられた言葉に彼は首を傾げた。 メル…それが自分の名前なのか…と思ったのだ。 「ネェ、メル?何カ、オ話シシテ?」 エリーゼと名乗った人形――彼女の意味深で不敵な笑みに、彼はゆっくりと口を開き、語り始める――。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!