光と闇の童話

3/7
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
彼は―― 生まれた時から闇に包まれていた。 光という概念すら分からない彼にとって、それがどんな物か知る由もなく。 そんな、見知った闇の中、 彼は光だと誤って認識したものがあった。 それは温もり。 母から感じる温もりが光だと思ったのだ。 だが、その温もりの名が愛だと知ったのは、後になってからだった。 母と二人きりで過ごしていた彼にも、ある時変化が訪れた。 初めての友達。 それまで闇に包まれていた彼だったが、 不可思議な出来事により光を手に入れ、 そんな折り、外で出会った友達――。 それは碧い瞳を持つ、金色の髪に透き通る白い肌、純白のドレスを着た可愛い少女だった。 しばらくは、彼女と良く会っていた。 しかし、別れの時は直ぐに訪れる。 彼と母親は家を引っ越すのだ。 彼女との別れの際感じた、 胸が締め付けられるような苦しさ、 その切なさの名を、恋だと彼は遂に知ることはなかった。 ――花に水を遣るように、 儘罪には罰がいる―― ――やがて訪れる宵闇。宵闇と共に疾るのは七つの物語―― ――摂理に、背を向けて―― 相変わらず、人形にメルと呼ばれた男は井戸の底にいた。 しかし、話を続ける彼に呼応するかのように、 情景は一瞬にして変わった。 井戸の冷たい石壁はなく、周りには家が転々としている。 彼が瞬時に井戸から出たのか、それともただの幻か、定かではない。 抱いている人形――エリーゼが口を開く。 「寂レタ村。マルデ墓場ネ。キャハハハ」 どこまでも響くような不気味な笑い声。 メルは彼女に視線を向ける。 「エリーゼ…。童話はいつだって、墓場から始まるものさ」
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!