第一章 出会い

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* 「ルナ、これからどんなに辛くても、暗い夜の闇に堕ちるように絶望してしまったとしても……それをあなたの持つ輝きで、明るく照らすのよ」 そう言ってお母様はその柔らかな白い手で、小さなわたしの頭を優しく撫でてくれた。 それが嬉しくて、わたしはにっこりと微笑んで見せる。 「お母様、それはどういうことですか?」 「ルナが大きくなったらわかるわ」 わたしは、すごく幸せだった。 ……だけどお母様は、そうじゃないみたいで。 桃色の口元にはうっすらと笑みを浮かべていたけど、睫毛を伏せた深い青色の瞳からは一筋の涙が。 わたしはこんなに幸せなのに……なんで、どうしてって思ってた。 * 「ルナ……満月のように、暗闇を照らし続けて……」 それが、お母様の処刑前の最期の言葉だったんだ。 まだ小さかったわたしは、お母様のもとには連れて行ってもらえなくて、侍女のノクシアにも頼んだけど拒否されて。 でも、どうしても気になって、こっそりとお城を抜け出した。 白魔法がその頃から得意だったから、透明人間になれるそれを自分にかけて大人の目を盗み、建物の影に潜んだ。 ……見に来なきゃよかった。 有罪になってしまったお母様は“黒魔法処刑”の判決が出ていたらしく。 二つの魔法石を執行人に奪われたお母様は、様々な黒魔法を受けて、終いには見物していた人達も魔法をお母様に放って。 お母様の美しい金髪は炎で焦げ、手錠を嵌められた両手は氷で更にその厚みを増し、風の刃はその白い肌に赤い華を咲かせ、立っていた地面は割れて、少しずつ沈んでいく。 ……そこで耐えられなくなって目を逸らし、自分の部屋へ戻ってしまおうと体を百八十度回転させる。 見なきゃ、よかった……。 そのときお母様が叫ばれた最後の言葉を聞いたんだ。 わたしに、満月のように輝き続けてほしいって。 思わず足を止めた。 ――だけど振り返らなかった。 ねえ、お母様。本当に悲しいときって涙さえでないのですね。 部屋へ戻ってから、せき止められた水が一気に溢れ出すように、涙が止まらなくなった。 ごめんなさいお母様……。 あれから十三年経った今のわたしは、お母様の願い通りじゃないんです。 照らしていない。 お母様がおっしゃるような輝く満月ではなく、光を持たない、ずっと満ちることが出来ない……新月のままなんです。 .
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