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この部屋の風景というものは、ものの見事に何もない、まさにまっさらな空間という表現がぴったりなほど何もないものだった。
「ま、こんな物かな」
ぼくは先程まで手に持っていた小説を、車輪がついていて移動可能な白い机の上に置くと、自分の身をベッドへと預けることにした。
いつも通りの風景をいつも通りに窓から眺める。
本当に変わり映えがしない風景だ。なんたってぼくはこの世に産まれ出てから十六年間、ずっとこの病院に入院しているのだから。
既に私室と化したこの個室とはもう八年の付き合いになる。
とある総合病院の、一角にある病室、そこにぼくはいた。
もう入院してから十六年。ぼくは外の世界というものを知らない。
別に全く知らないわけではない。勿論小説や、テレビ、こうして窓から眺めたりしているので、厳密にいえば知っているのだ。
しかし、ぼくはいまだかつてこの病院という監獄から抜け出した事はないのだ。
「次は何を読むかな」
わざとらしく声に出しながら、次に読む本を考える。本を読むのはぼくの唯一の楽しみだ。本というのはそれだけでぼくに色んな事を教えてくれる。物語を通してぼくに色んな事を学ばせてくれる。
普通の人ならゲームとか、携帯とか、色々暇をつぶすことができるものはあるのだろうが、ぼくの家は、ぼくの入院費を払わなければいけないのでそんなにお金に余裕がない。
なのでそんなにお金がかからないで、楽しめるものをと母がぼくに一冊の本を与えてくれた。
それが始まりだった。
最初に呼んだのは太宰治の『人間失格』。次に星新一。宮沢賢治と次々に有名作家の作品に手を出していった。最近はライトノベルにはまっている。
因みに先程の本は、携帯小説で優秀賞を取った物らしかったのだが、展開がイマイチ。描写がない。文法間違いととにかくぼくにとっては──人それぞれ感じ方は違うと思うが──最悪なものだった。
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