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「忘れ物は?」
「ん~っ多分大丈夫!」
王道漫画の主人公の様に口に食パンをくわえ込み、身仕度を整えながら応える。
「光紀、約束よ?ちゃんと休みの日には……」
「分かってるからー!休みの日にはちゃんと家に帰ってくること。だろ?」
昨日の夜辺りからずっとこの調子だ。
いい加減、耳にタコでも出来るんじゃないのか。と光紀が言いたい程にこの台詞を繰り返す母。
「お母さん、光紀が心配でしょうがないんだけど…」
まるで、溺愛でもしている愛娘を見知らぬ世界に旅をさせるようなそんな物言い。
「俺だって男なんだから大丈夫だって!もう高校生だし!」
少しだけ自慢気に言い切れば、普通ならそこで終わっているだろう。母はそれでもなお、でも…。と言いたげな表情をして光紀を見ている。
ため息すら既に出なくなってきた。
一向にラチが着きそうにない母と光紀のやり取り。ふと廊下の壁に付けられている、時計に視線を移す。
AM 6時25分。
淕と待ち合わせしている時間まで5分を切っていた。
「やっば!!それじゃ、母さん!また電話するからっ!」
家から勢いよく荷物を持って飛び出した。
背後から母の、ちょっと~!と叫ぶ声がしたが光紀は振り返る余裕すらない。そのまま走り出した。
ある意味で言えば不謹慎かもしれないが、こんな時にこそ、淕と家が近くて良かった。とつくづく思うのだ。
向かう先は淕の待つ家。
「…あ。光紀ー」
分かりやすく家の前に立ち、手を振っている淕の姿が見えてきた。
「はー…はー…ちょっ遅れてごめ…!」
「いや、大丈夫」
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