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「はぁ…」
なんとか出社して来たのはいいけど、仕事が手につかない
すでに夕方を過ぎていて…というか、もう退社の時間だ
なのに3日後には提出しなければいけない資料が、ほとんど捗っていなかった
目の前の事に集中出来ない原因は、もちろん彼のせいだ
どうして仁さんはあんな事を…
何度も同じ事を考えてしまう
彼は俺の想いに気づいていたようだった
自分の弟に邪な感情を抱く俺を嫌悪していたのか?
でも彼はそういったものに理解があるような事を言っていた気がする
それとも、やはり身内の事となると別なんだろうか
仁さんの瞳が浮かんでゾクリとした
彼の目が、指が、舌が、そしてたくましい欲望が俺を追い詰めた
それに悦んで彼を受け入れた昨夜の自分の恥態を思い出して熱くなる身体を自分で抱きしめた
そうでもしないと…
「はぁ…」
自分が思っていたよりも頻繁に溜め息を吐いていたらしく、パーテーションで仕切ってある隣の同僚が
「お―い、大丈夫かぁ?
3分に一回くらい溜め息吐いてるぞ
昨日友達の結婚式だったんだろ?飲み過ぎか?」
と覗き込んできた
「ん…、大丈夫」
机に突っ伏して答えると、掠れぎみの声を聞いて
「え?マジで具合悪いの?
帰った方がいいんじゃないか?」
焦った声を出している
この書類の目処がつくまで残業していこうかと思っていたが、確かにこれだけ集中出来ないようなら今日は諦めて大人しく帰った方がいいかもしれない
どうせもう退社時間も過ぎている
「うん、そうしよっかな」
仕方なく帰り支度を始めていると携帯電話が鳴り響く
ディスプレイを見ると知らない番号からだった
不思議に思いつつ通話ボタンを押す
「…もしもし?」
次の瞬間、聞こえた声に血の気が引いた気がした
「じ、んさん…どうして…」
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