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「はあ……どうやら籠ってはいない……よかった、セーフだ」
大分離れた位置――主に建物のある集落へとやってきた香乃斗は空を見上げるが、変わらずに晴天だ。
この世界に夜はあるのかどうかは判らないが、少なくとも天照大猫神の機嫌を現在損ねることはなかったと安堵の息をついた。
「でも、この辺りってどこなんだろ?」
何度も訪れているとはいえ、そんなに多く広く足を踏み入れたことのない香乃斗にとっては【高天原】は未知の領域だ。
とりあえず歩いていれば誰かと出会うだろうと、ぶらぶらと当てもなく歩いていると、広い部屋の前で多くの神に囲まれた見覚えのある神様の姿を発見した。
「あ。月読様だ」
挨拶をしようと香乃斗は近づいた。
「月読様ー、明けましておめでとうございます……って、何やってるんです?」
声を掛けて挨拶をしたものの、どうも様子が慌ただしい。
バタバタと指示を出されたそれぞれの者達が慌ただしく走りながら去っていき、くるりと月読がそこで香乃斗へと振り向いた。
「ああ、あけましておめでとうございます。香乃斗さん」
声ですぐに香乃斗だと気付いたのか、そう言って月読は振り返った。 けれど、その表情はいつもよりも険しい――どことなく苛立っている空気が見えた。
「ちょっと今、手を離せないんですよ。曲がりなりにも三貴子の私たちは高天原では一番えらいですからね。年始の挨拶がひっきりなしなんですよ。しかも行方不明の人もいますし……」
本当に忙しいのか、一気にまくし立てるようにいうと頭痛そうに額に手を当てた。
普段、気まぐれな長女の天照大猫神は元より、問題児の須佐之男もいるのだから、日頃苦労が絶えないのだろう。
しかし、どうやら今日は更に輪をかけて眉間の皺が寄っているのは気のせいではない筈だ。
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