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3
月読のいた場所から離れたところで、香乃斗は速度を緩めて、広く大きな建物の間を縫うように、当てもなく進んでいた。
「月読様、結構大変なんだな~……うん、早く見つけて連れ戻そう」
年末年始で忙しいのは人間も神様もそう変わらないんだな、と、そんなことを考えながら年神らしい女神はいないだろうかと――それで発見できるのなら苦労はしないが――香乃斗が周囲へと首を廻らせていた時だ。
「おー歌のうまい兄ちゃんじゃん。どしたんだ?」
「?……あ!スサ!」
聞き覚えのあるそれに、香乃斗は振り向いた。
見れば、廊下の奥から魚のひものをかじりながら、須佐之男が現れた。
「なんかずいぶん慌ててるみたいじゃん?」
「うん、まあ……あ、そうそう。あけましておめでとう!今年もよろしく!」
「おう。あけおめー」
ぺこり、と、香乃斗が新年の挨拶を返せば、摘みの干物を齧りながら須佐之男も短く応えた。
「って、のんきに新年の挨拶してる場合じゃないんだ。年神ってどこにいるか知らない?」
月読様が困ってるらしくて今捜してるんだけど、と香乃斗は彼に問う。
無意識のうちに、しかも強制的に何度も高天原を訪れたとはいえ、基本、香乃斗はここに関しては無知だ。
大抵が知る前にそれどころではない事象に巻き込まれるのがお約束のようなものだからだ。
とりあえず、こちらの彼らに問いだして月読以上のヒントくらいは掴めるといいが。
そんな香乃斗の眼差しに、須佐之男は言ってから少し考えるようにしながら干物をガシガシ噛む。
「年神ってあのやたらひげのなげぇじいさんか。この時期は全国跳びまわってっからどこにいるかわかんねぇだろ」
……じいさん?
……全国に?飛び回って?
「え、ええ?ちょっと待って!」
思いもよらない単語が出たことで、香乃斗は慌てて聞き返した。
「年神っておじいさんなの? 月読様は女性だって言ってたけど?もしかして年神って何人もいるの!? っていうか、全国って日本全国だよね!? 流石に俺もそれを見つけるって、無理だよー!」
須佐之男のそれに当然、香乃斗は困惑する。
こんな話なら気安く手伝うなどいわなければよかったと大いに後悔するが、そんな彼の様子など気にもせず、須佐之男は思い出したように軽く頭を掻いた。
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