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「ハイムさん…ありがとう。オレ…」
自分は恵まれている。周りはこんなにも優しい人間ばかりだ。
もう少しでそんな人たちを失うところだった。過去を求めたばかりに、今を捨てるところだった。
セイルは感きわまり、あふれてくる涙を必死におさえた。
「大丈夫だ。この先ちゃんと償っていけばいい。わかったな?」
「は…はい」
そのやり取りを、ルミは木の陰に隠れて聞いていた。
ついさっきナナの事件を聞き、セイルを殴り飛ばそうと探していたが、もうその必要はないようだ。
「まったく…男って本当ズルいわね」
微笑みながらため息をつくルミ。
ハイムとセイルの今の空間に、自分が入る隙間はないだろう。
セイルはそれからしばらく、ハイムの目の前で思う存分泣き続けた。
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