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大丈夫。
何もなかった。
白髪の彼女
「……長年……永年生きて粗方、経験したつもりだったが」
だけど、記憶は彼女を手放してはくれない。
掴んで、つかんで。
彼女は目を伏せた。
白髪の彼女
「……情けない」
結局、まだ怖いのだと、彼女は知る。
人間を殺めようとは思わない。
憎もうとも思わない。
されど、やはり彼女も感情を有する生きる者。
いくら己を奮い立たせても、
心と体の震えを抑えられない。
赤い彼
「……ばあちゃん、なんか苦しかった?」
白髪の彼女
「…なんだ、起きてたのか?」
赤い彼
「まぁなぁ。なんかばあちゃんが苦しそうに唸ってたし、気になって」
白髪の彼女
「……そう言うときは起こしてやるのが優しさだ、馬鹿者」
どうやら、傷口はまだしみるらしい。
白髪の彼女はその小さな身を小刻みに震わせながら赤い彼に苦笑した。
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