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「ほら、行こーよー」
間延びした声で急かしてくる楓さん。
「そんな事言われましても、道のりが分からないんですよ!!」
「おー。じゃ~迷子なんだぁ?」
また楽しそうな顔。
この子絶対知ってましたよね? 確信犯ですよね?
「ええそうですよ!! 半泣き状態でフラフラしてたじゃないですか!!」
「なんだ~、言ってくれれば良かったのにー」
言うもなにも、私が貴女の存在に気付いたのは数十秒前ですが。
人をからかってるようなこの態度、私はどうにも好きになれないです。
「もう私の事は放っておいて一人で」「じゃあ行くよぉ」
私の言葉を遮ってそう言った楓さんは、一歩近付いて私の右手を握りました。
「えっ?! ちょ、楓さん?!」
なな、なんでしゅか急に?!
心の中ですら噛んじゃいましたよ!!
「さっきから思ってたけど、敬語やめてー。じゃ飛ぶぞぉ!!」
なんか妙に気合入ってません?!
「距離200くらいかな、方位はあっち。いぃえ~~い!!」
「飛ぶってどこにでーー?!」
言い切るより先に、私の身体は薄緑色の柔らかくも力強い光に包まれました。
そしてその次の瞬間、周囲の景色は、どこまでも続く勢いの長い廊下から、見知らぬ屋外へと移っていました。
一面新緑、温い風。
......これって転移魔法?
「おー大成功大成功。良かったよ~」
「......っぷはぁッ」
頭が混乱し過ぎて、息を吸う事を忘れていました。
いったい何が起こって......。
「まだ先生はいないみたいだよ。無遅刻一日目だねー」
「あの、楓さん、今のってひょっとすると転移魔法でした?」
「また敬語~。そーだよー?」
あぁ、この人ってこういうタイプの方だったんですね......。
どうりで一般人とは違う匂いがすると思いましたよ。
どうして天才ってこんな変人ばっかりなんでしょう。
15歳で上級魔法だなんて、
「上級魔法? 上級魔法じゃないですか!! 何やってるんですか?!」
「あぁうぁうぅうう、普通に使っただけだよぉ~」
興奮のあまり楓さんの肩を掴み揺らして問い質してしまいました!!
そんな馬鹿な事......。
上級魔法なんて、優秀な人でも17歳程度でようやく覚えるものですのに。
前代未聞、いや、人類史上最年少。
間違いありません、この子、将来王国軍の将軍とかギルドマスターになるようなタイプの人間です......!!
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