笑顔

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「っはぁ、ーー陽菜っ!!」 バンッ、と乱暴に開いた扉。 速い心臓の音が、頭まで響く。 寒さに凍えていた身体が熱い。 居た。陽菜が居た。 包丁を持った、陽菜が居た。 ーーーー間に合った。 虚ろな視線だけを向けてくる狂気的な陽菜の行動よりも、今はただ陽菜が無事なことが嬉しい。 まずは、異常な程に俺を愛するお前が愛しいと抱きしめてやろう。 その後は、無理に笑わなくていいんだと言って、そんで、浮気は責めてもいいんだと言って、最後に浮気はしないと約束する。 「とう……ま……」 俺の名を呼び、立ち上がった陽菜を抱き留めようと両手を広げる。 ーーーーは? 「……っあ゛、…はっ…ハァ…」 俺の腹に刺さる、包丁。 「馬鹿……違う……だろ……」 ーー嗚咽を漏らし、泣きじゃくる陽菜。こっちが泣きたいつの。 「ーーあのね……私っ、一生懸命っ考えたんだけど……私は死んでもっ、冬真の前に現れちゃうと思うの……冬馬が、好きだからッ…だから……だからねっ…うっ…」 ーーーー馬鹿野郎。 膝から崩れ、倒れる俺。 目の前には砕けた植木鉢と土と、茎の折れたウォールフラワー。 もう戻らない、゛愛のきずな“。 何でコンナ事になった? 嗚呼、俺が陽菜をーー 試したからかーー。 俺が最期に見たのは…… 涙でぐしゃぐしゃになった ーーーー愛しい、陽菜の笑顔。 やっぱ……可愛いわ。 ちくしょう……声出ねぇし…… 陽菜に言いたい……こと…… 山ほど……あんだけどなぁ…… 「……ハァ…ぁ……ッ……」 目の前が黒くなってゆく。 これでもう二度と俺の目に ーーーー陽菜の笑顔は映らない。 fine .
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