第一部・悠子と巧

10/67
前へ
/67ページ
次へ
夏の気配が忍び寄る頃、「囲炉裏」の陶芸部のボランティア講師である熊田巧は、ジーンズにTシャツの上にエプロンといった姿で自宅での陶芸の制作をしているところに、ひとりの若い女性の訪問を受けた。薄手の地味なワンピースを身にまとったその娘は自分を熊田瞳と名乗った。巧は瞳の中に何かしら尋常ならざるものを見てとって、急いで手を洗い、エプロンを脱いだ。熊田姓を名乗るからには、巧と遠い親戚でもあろうかと最初は考えていた。しかし、瞳の話は巧には唐突過ぎるものだった。巧と瞳は腹違いの兄妹だということであった。思わず巧は自分のやや長髪の髪の毛を掻きむしった。巧は瞳の年齢を聞いた。二十歳になったばかりだという。巧は今年で四十一歳になる。父親は巧が二十二歳の時に病死していた。母親はそれ以前の巧が十八歳の時にこれも早い病死をしていた。巧は母親が亡くなってから、すぐに高校を卒業すると同時に、ある陶工に弟子入りをしていた。住み込みだったので、父親とは年に数えるほどしか会っていなかった。父親にしてやられたと思った。巧は瞳の顔つきに父親の面影があることに気がついた。それに巧と同様に比較的に痩身な身体つきをしていた。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加