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髪を後ろに束ねた荘村が出てきて「エキノクス」から演奏が始まった。不協和音とアルモニコスを使った不思議な作品である。季節の「秋分」を意識した曲だという、どこかしら哀しげな気分を漂わせた曲想であった。二曲目に「ソングス」より「島へ」「死んだ男の残したものは」、「小さな空」という比較的分かり易いポピュラーな曲が三曲並んだ。「島へ」は一九八三年にNHK大阪局が放映したテレビドラマ「話すことはない」の挿入歌として作曲されたものだったが、ドラマでは使われずに翌年に合唱曲として発表された、アルモニコスから始まる、たゆとう海と風をイメージした美しい曲だった。悠子は次の曲「死んだ男の残したものは」でなぜ詩人の谷川がここにいるのかを理解ができた。フォーク・シンガーの高石ともやが歌ったこの反戦歌の作詞をしたのが谷川俊太郎で、作曲はもちろん武満徹だったのである。荘村が「死んだ男の残したものは、ひとりの妻とひとりの子供、他には何も残さなかった、墓石ひとつ残さなかった・・・」と訥々と詩を朗読して演奏に入った。武満の作品としては分かり易いメロディックな曲であった。ロー・ポジションからハイ・ポジションにとメロディーを使い分けた演奏を聴いて、悠子はこの曲を聴けただけでも来た甲斐があったと思った。
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