第一部・悠子と巧

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悠子は荘村のコンサートに刺激を受けて帰路に着いた。帰りの電車の中で悠子は一表現者として、今の自分の生活は良かったのだろうかと考えていた。水曜日に講義する「囲炉裏」の場以外のほとんどの曜日は、自宅での個人レッスン、合同レッスンに時間を当てなければならない日々であった。自分の練習する時間がもっと欲しいと悠子は思った。去年に「囲炉裏」の発表会で弾いた「アランフェス協奏曲」の第二楽章のアダージョ以外の全楽章もマスターしたかった。今月の二十一日には女性ギタリストの日渡奈那のスイスからの帰国コンサートがあって、この「アランフェス協奏曲」の全楽章がピアノとのデュエットで演奏されることになっており、悠子も見学する予定になっている。今年は色々な人の演奏を聴いてみたいと思っていた悠子であった。
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