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夜もとっぷりと更ける中、左大臣邸の前に牛車(ぎっしゃ)がゆっくりと止まる。
源 忠将(みなもとのただまさ)は、牛に括り付けられた紐を外すと、そっと牛車を前方に傾ける。
主が降りて来る位置に小さな台を置くと、忠将は中の主に手を差し延べる。
「清(きよ)姫様、お足元にご注意下さいませ」
“清姫”と呼ばれたその姫は、この左大臣邸の一人娘だ。
「こんな台なんて無くても降りられるわよ」
忠将の手はしっかりと取りつつ、清姫はひょいっと軽く牛車から降りる。
「清姫様……いくらご自分のご実家と言えど、どこの公達(きんだち)等が通るか知れませんので、姫君としての振る舞いは屋敷に入るまできちんと…」
「あー、もう! わかったわよ! 忠将のお小言は聞き飽きたわ」
「ですから清姫様…、言った傍からボロをお出しに……」
と言う忠将から逃げるように、清姫はさっさと屋敷に入って行こうとする。
そんな清姫を見て、忠将は諦めて清姫を追う。
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