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清姫の準備というと、さほどすることは無いのだが、十二単(じゅうにひとえ)では動きも制限される為、寝間着の小袖に着替える。
ちょうど支度が整ったところで、庭から忠将が清姫を呼ぶ声が聞こえ、清姫は一度目を閉じる。
すぅっと目を開けると、普段は漆黒の瞳が黄金の瞳に変わっていた。
「入れ」
そう言った清姫の言葉に、忠将は「失礼いたします」と一言呟くと、縁側へと上がり御簾を上げ、中へと入って行く。
褥(しとね)の傍に立ち尽くす清姫に膝を付いた忠将は、普段の武家装束ではなく、直衣(のうし)と呼ばれる、普通ならば内裏の公達が着る真っ白な着物を羽織っていた。
清姫が主で忠将が従者であった時、忠将が“目印”と称して唐衣(からぎぬ)を贈ったように、清姫は忠将に直衣を贈った。
―それは着る事に意味があるのではなく、単に“所有物”としての“目印”なのである。―
そういった知識が、この世に生まれてくるより前に、頭の中に植え付けられている理だ。
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