第壱話 「旅人」

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『同調者がいないから、滞在時間は五分ソコソコだ。手早く頼む』 <了解しました> シノブが部屋の中央に直立不動の体制で言うと、その脇をすり抜けていく闇が見えた。 ポルコが包まれているダークゾーンを尻目に、シノブは当時の状況を脳内で更に細分化して記憶を引き出す。 すると、浜松船長の遺体周辺の状態が細かく蘇り始める。 何もなかった場所へ血痕が浮かび上がり、壁に立て掛けてあった物資や張り付けてあった写真、机の上に散乱していた書類や日誌、床に散らばる酒瓶につまみにしていた食糧、ベッドのシワまで出来上がり始めた。 『…この辺までが限界だな。この後直ぐにプログラムの解除作業に取り掛かったから覚えてないんだ』 <いえ、充分ですよ。よく覚えていらっしゃいましたね、隊長> 『まぁな、あん時は血の気が引いていくのが分かるくらい頭が冴えてたし…、ん?』 そこで疑問を覚えたのか、シノブが額のシワを更に寄せて呟く。 『頭が冴えていたんじゃなくて、冴えたんだ。…そうだ、確か部屋に突入した時、バカに室内の空気が冷えていたんだ。鳥肌が立ったくらいだからかなり冷えていたって事は…』 <誰かが、船長室に液体窒素を流し込んでいたかもしれない…という推測が生まれますね。 或いは、その存在自体が冷気を帯びている何者かが此処に居たか…> ゙意識内゙の浜松船長の遺体周辺を調べながら、ポルコが興味深そうに何度か頷く。
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