第壱話 「旅人」

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「ハァ…ったく、それにしても黒地に赤の線って何処の暴君と同じカラーリングしてんだ、お前は」 面倒臭そうにシノブは顎に右手を添え、だらしなく左手をぶら下げた。 アレコレ彼女が悩んでいる途中、ぶら下げた左手の手首にずり下がってきたらしい金属性の細身のブレスレットがキラリと顔を制服の裾から覗かせる。 と、それまで何処か上の空だった怪獣の様子が一変した。 彼女のブレスレットを熱心に見つめ、続いて彼女の顔をマジマジと眺め出したのだ。 その様子に気付いたシノブが、左手をつぃ…っと横へ動かす。 つつつつつつ…… 怪獣は釣り糸にひかれるかのように腕の動きと一緒にブレスレットを追っかけて来る。 また反対側に腕を振ると、 ととととと……っ と子犬が玩具に釣られるように追っかける。 「……ハハっ、お前面白い奴だなぁ」 何度か同じようにして怪獣を遊ぶと彼女は立ち上がり、怪獣に向けて手招きする。 『グゥゥっ?』 「警戒してないで黙って付いてこい、殺菌消毒とバクテリアの体質調査が済んだら最低限の衣食住を用意してやる。  どうする?」 懐から取り出したマルボロの箱から煙草を一本咥えると、彼女はニヤニヤ笑いつつ問い掛けた。 怪獣は少々考えているのか俯き、暫くして彼女の足元へと近付きシノブの脛に頭を擦りつけた。 「どうやら、交渉は成立したみたいだな。 さて、そしたらさっさと行こうかね…ウチの船一番のMad野郎の研究室に行こうかね?チビスケ」 ひょい、と怪獣の首根っこを持ち上げて歩き出そうとした途端、怪獣がじたばたと暴れ始めた。 「アン?何だ? …何々、チビスケ呼ばわりが気に食わないのか。ふーんそうかそうか…んじゃ、カラーリングがアイツに似てるし。 よし、お前の名前は今日から"ベリアル"だな。それなら文句は無いだろう」 『ガゥオ!?』 この時、シノブは何気なくそう言って怪獣の名前を着けてやったのだが… "怪獣"の方は大いに驚いた。 何せ、この怪獣こそ多重宇宙においてウルトラマンゼロと彼の仲間達が倒した筈の、あの"ウルトラマンベリアル"張本人だったからだ。 そんな事など露知らず、シノブは再び怪獣…ベリアルのしっぽをむんずと掴むと、引き摺る勢いそのままに何処かへと向かって行った。
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