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はぁはぁはぁはっ――
夜。
真っ暗な森の中を、ひとりの男が転けそうな勢いで駆け抜けていた。
手足をもげそうなほど必死に動かす、行商人といった風体の男。
視界の悪さに木にぶつかりながら、木の根や草に足をとられながら、必死に走っていた。
その顔は恐怖と苦しさに歪んでいる。
――男は逃げていた。
はっ、はっ、はっ――
息遣いが小刻みに喘ぐようなものに変わり、それが男の限界が近い事を知らせていた。
それに合わせて、段々と鉛のように重くなっていく手足。
男の筋肉が悲鳴を上げる。
ガクンと足から力が抜け、男は地面を勢いよく滑った。
擦りむける手足。何より筋肉が痙攣して、いうことをきかない。
その時だ。暗い闇の中に二対の朱の瞳が浮き上がった……。
ハッハッハッ、ハッ――
人では無く、獣のような息遣い。
それに男は振り向き、闇の中に浮かぶ朱を見つけた。
目いっぱい目を見開いて、恐怖に息をつめる男。
あまりの恐怖に男は固まってしまう。
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