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「…あなた、私を誘拐したんじゃないでしょうね」
自分でも馬鹿らしいと感じながら、男にやっと放った一言がそれだった。
男はキョトンとした顔でこちらを見た。
当然だろう。
名前を聞いて返ってきた言葉がそれなのだから。
「誘拐?まさか」
「ぁ、ですよね…」
怪訝な顔をする男に、自分の不躾な質問を恥じた。
「君が変な柵に囲まれたところで踞ってたから、ここに連れてきただけだよ」
「なんだ、そうだったのね…、………はい?」
一瞬納得しかけた後、男の不可解な発言に疑問を抱く。
踞っていた私を、連れてきただけ?
本人の了承を得ずに?
見ず知らずの貴方が?
「……それを俗に、誘拐と言うのよ…」
キョトンとする男をこれ以上責めるつもりはない。
記憶はないが、自身の身体をくまなく調べたが手荒くされた形跡はない。
恐らく私にも落ち度があるから、このような事態になっているのだ。
更に彼と私は違う種族。
私たちの間の常識は、恐らく大きくかけ離れているのだろう。
だから、私が今すべき事はこれが誘拐か否かの議論ではない。
「私を、元いた場所に帰してくれない?」
ここからの脱出だ。
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