*出会いは目覚めと共に*

6/8
前へ
/22ページ
次へ
しかし。 「何故?それじゃあ君をここに連れてきた意味がないじゃないか」 少しむっとした顔になり、男はそう言い放った。 なんとなく予想はしていたけれど、彼は私を元いた場所に戻す気などさらさらないらしい。 しかしこちらも全く策がない訳ではない。 「それなら自分で戻るまでだわ」 私は、魔法使いなのだから。 私達は其を"リターン"と唱える。 魔法を扱い始めてすぐに習う初級魔法の1つ、リターン。 其を唱えれば、どんなに離れた場所にいようと、自分が元いた場所に戻る事が出来る。 私の場合、今は試験会場だろう。 私は迷うことなく人差し指を振る。 これで、この変な空間とも、もっと変な男ともお別れだ。 「リターン」 ポスン。 「…………」 「…………」 …ぁ…あれ……? どこか空気が抜けたような音と、白い煙が少々、私の人差し指から現れた。 背景は変わらず白い部屋。 隣には言うまでもなくウサギ男。 「何やってんの?」 「じゃ…邪魔しないで!リターン!」 きっと、きちんと発音できていなかったのだ。 私はそう自分に言い聞かせ、再度願いを込めて人差し指を振る。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加