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しかし。
「何故?それじゃあ君をここに連れてきた意味がないじゃないか」
少しむっとした顔になり、男はそう言い放った。
なんとなく予想はしていたけれど、彼は私を元いた場所に戻す気などさらさらないらしい。
しかしこちらも全く策がない訳ではない。
「それなら自分で戻るまでだわ」
私は、魔法使いなのだから。
私達は其を"リターン"と唱える。
魔法を扱い始めてすぐに習う初級魔法の1つ、リターン。
其を唱えれば、どんなに離れた場所にいようと、自分が元いた場所に戻る事が出来る。
私の場合、今は試験会場だろう。
私は迷うことなく人差し指を振る。
これで、この変な空間とも、もっと変な男ともお別れだ。
「リターン」
ポスン。
「…………」
「…………」
…ぁ…あれ……?
どこか空気が抜けたような音と、白い煙が少々、私の人差し指から現れた。
背景は変わらず白い部屋。
隣には言うまでもなくウサギ男。
「何やってんの?」
「じゃ…邪魔しないで!リターン!」
きっと、きちんと発音できていなかったのだ。
私はそう自分に言い聞かせ、再度願いを込めて人差し指を振る。
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