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翔の神野を見る目は真っ直ぐなものだったが、神野はそれにどこか陰りを感じた。
「翔君、だったね? ついて来なさい」
「はい」
翔はボストンバックを担ぎ直し、歩き出す神野の後を追ってくる。
境内の砂利道を進み寺の本堂を横切り、玄関までたどり着く。
途中、翔は右手に見える日本庭園に目をやったが、眺めるという程ではなく、ちらっと見ただけだった。
その反応に神野は袈裟の位置を直しながら、肩をすくめた。
毎日欠かさず手入れをしているというのに、やはりまだまだ子供だ。日本庭園のよさが分からないらしい。
神野は玄関を開けて、長く年季のはいった廊下を渡り、翔を居間まで案内した。
六畳の居間には食事用の台と座布団、山水画の掛け軸や古めかしい壺。それ以外にはない。
ちなみにテレビも置いていない。世間のことは新聞で十分。それが神野の主義である。
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