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「……私はただ、止まっていた時計の針をもう一度動かしたいんだ。
渉のも……私達のも……」
父さんの言葉に、母さんがワッと泣き崩れた。
母さんは幼い少女のように床にへたり込んで声を上げて泣いていた。
その声を横で聞きながら、俺は父さんを盗み見た。
痩せてすっかり変わってしまった父さんの横顔。
しかし、前を真っすぐ見据えたその横顔は、以前の父さんよりも頼もしく思えた。
父さんは静かに床に膝をつけると、そっと母さんの肩を抱いた。
「……お前達に酷なことを言っているのはわかる。
私は、渉の小さな……とても小さな命の灯火を消そうとしているのだからな。
しかも、お前達にその同意を求めている」
父さんは苦しそうに目を伏せた。
「本当にすまない……」
父さんの謝罪の声は小さく、酷く震えていた。
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