6人が本棚に入れています
本棚に追加
「な、にを」
「魔王。お願い」
事態を飲み込む前に、魔王の手により衛兵は灰と化した。
「……笑ってくれ。私の望はそれだけだ」
魔王は姫に向き直る。
姫は、泣いていた。
「約束よ、魔王。
私を殺して」
魔王は悲しい瞳を姫に向けた。
「わたし、疲れたわ。みんなかしこまって窮屈過ぎるんだもの」
涙は止まらない。
「私が約束を果たすのは、お前が私の城に来ることだったはずだ」
優しく姫を抱きしめた魔王は目をつぶった。
「私の約束は全てをなかったことにすること。でしょ?」
姫はそっと魔王を離れ、少し背伸びし、口づけた。
決して長くはないその時間。
魔王は動かなかった。
「なら、こうするしかない、な」
善を知らない魔王は、その手で姫を貫いた。
一瞬の出来事だが、すぐに姫の腹部は血に染まる。
「……お前は、ずっと私のもの」
姫を横抱きにし、静かにつぶやく。
雨とともに姫の血は服に吸い込まれる。
魔王の目から、水が流れた。
「あり、がとう……」
最初のコメントを投稿しよう!