来訪者

6/6

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 寒い。日差しは既に上から注ぐ時間になっていた。  ベッドから出て部屋の寒さに驚くが時間はいつも通りだった。昨日となんら変わりはない。  ざらついた口のなかを舌でなぞり流し台へ行く。蛇口から出る水をコップも使わずに口へ流し込み、勢い良く濯いで吐き出す。  可愛いげのない落ち着いた色合いのアパートの一室を見渡した。それから未だに俺のベッドに寝ている真由莉にキスをして起こす。  まだ寝ぼけている彼女の目には俺が映っている。甘えるような笑顔で抱き着く華奢な身体。  「ほら、ささっと起きろよ。病院行くんだろ?」  「うん。救急車呼ぶ?」  「ならお前を殴って気絶したところを運ばせるか」  「それは名案ね」  「だろ?ほら早く着替えろ」  「ねぇ、───」  「ん?」  「おかえりなさい」  「あぁ、ただいま」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加