試験って合格したら嬉しいハズだよね?

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「伊織ちゃんから伝言なのですぅ」 「伊織ちゃん?」 「ああ、間違えましたぁ。 小林少将でしたぁ」 「小林少将から?」 「ハイですぅ」 ……コイツ。 上司をちゃん付けで呼ぶとかどんだけだよ。 かくいう魅子もそれなりに階級は高い。 実はコイツ、中尉だったりするんだよな。 俺も初めて知ったときは驚いた。 「こんなお子様が!?」とか「冗談だろ?」とか何回も確認したぐらいだ。 「で?伝言の内容は?」 スプーンを空中で回しながら尋ねた。 おっと、行儀が悪かったな。 「今から伊織ちゃ……じゃなかった、小林少将のモノマネで伝言するですぅ」 「ツッコミどころ満載だが、ここは敢えて無視して聞こうじゃないか」 「了解ですぅ! あーあー」 そう言って、喉を調整しにかかる魅子。 正直、モノマネなどどうでもいいが、魅子をいじる材料が増えそうなので、傍観することにした。 「ではいきます! 『水嶋さん、今日の試験についてですが、どうしても言っておかなければならないことがあります』」 おっ? 予想外だ。 メチャクチャ上手い。 それはもう、小林少将の声そのものと言えるほどのクオリティだ。 やるな魅子。 しかし、どうしても言っておかなければならないことってなんだ? 「『水嶋さんにとっては、不合格になると地獄のような日々が待っているのは既にお気付きでしょう。 かといって、合格して軍で働くことになるのも本意ではないかもしれません』」 全くだ。 だから俺はどうしたらいいか本気で悩んでいたのだ。 そんな俺の悩みなどお構いなしに魅子は続ける。 「『だからといって頑張った《振り》をして、わざと不合格になって、自分には実力がないから合格なんてできない!というような誤魔化しは効きません。 もし手抜きがあった場合は……』」 そこで勿体つけるように、魅子は十分すぎる間をとった。 「『コロしますよ?』」 一瞬時間が止まった。 あれ? 魅子ってこんなに怖かったっけ? 鳥肌が立つほど寒気がするんですけどっ! 「だそうですぅ」 あれ? 今のは夢? いつも通りになった魅子に少し安堵したが、これからは余りいじらない方がいいかもしれない。 心の中で、固く決意した瞬間だった。
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