始まりはいつだって突然だ。

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「あち! あちちちちっっーーーー!」 みっ水ぅーーーーー!! 水はどこだ!? 必死に辺りを見回す俺の視界に飛び込んできたのは、ゴミ箱などにもよく使われる、鉄製の円筒状のバケツだった。 ここは自動車修理工場だからな。 そんなバケツは山ほどある。 その中の一つに、液状のものが入ったものがあった。 それに気付いた瞬間に、俺は走り出していた。 そして、人目も気にすることなく、お尻からバケツにダイヴした。 「ふうっ! なんとか助かったぜ!」 冷や汗を流しつつも、人心地得た気でいた。 そう、この時はまだ……。 ザワザワッ─── ん? 周りがやけに騒がしいが何だ? そう思ってよくよく考えたら、今の自分の姿勢がいかに間抜けな状態かに漸く気付いた。 そりゃ騒ぐよね? 大の大人がバケツにお尻突っ込んで冷や汗拭いてたら。 俺なら腹抱えて笑って、バケツごとひっくり返してる。 それを同僚達は、多少騒ぐ程度だ。 皆心が広いねー。 「おい水嶋!」 「なんっすか?」 取り敢えずの落ち着きを取り戻した俺に声をかけたのは、俺より3年早く入社した先輩だ。 名前はなんだっけ? 確か……生まれてこの方彼女がいない、ワキガ臭くて、カラオケの度にマイクを独占し、飲み会の席では裸踊りしか能の無い、嫌われ者の田宮先輩?だったかな。 そんな嫌われ者の先輩でも、ちゃんと名前を覚えてるなんて、俺って結構先輩思いだよな。 で、なんだろう? 「お前それ、オイルの缶だぞ?」 はっ?
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