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少しは安心したが、この状況は十分安心出来るような状況ではない。
「RPGって、あれか? ロールプレイングゲームのことか?」
聞き慣れた言葉に、自分の知識を重ねて聞き返す。訳のわからない勧誘を持ち掛けられているみたいだ。
「ま、そんな感じかな。僕はキミにひとつ質問をしに来ただけなんだ」
男は何がそんなにうれしいのか、ずっと笑ったままだ。
「質問?」
「そうさ。RPGに参加したいですか? ってね」
「そんなわけがわからないものに参加するわけないだろ!」
もちろん答えはNOだ。そんな得体の知れないゲーム、誰がやるものか。それに、この男も怪し過ぎる。いきなり画面から現れて何を言っても信用できるわけがない。
「キミはさぁ」
なんなんだコイツ。
俺の話もまともに聞いてさえいない。
「お父さん。治してほしくないの?」
「えっ!?」
なんでお前がそんなこと知ってるんだよ。この事を知っているのは近所の人と俺の家族、父と関係ある人くらいだ。ニュースや新聞ではそのことは伏せているはずだ。
父はゲーム会社の社長、市販で売られている人気のゲーム機器や、さっきまでやっていたオンラインゲームまで幅広く作り上げる腕利きの技術者である。
いや、「であった」というのが正しいか。
父は半年前に交通事故で頭を打った。それがたまたま打ち所が悪く、今になってもまだ目を覚まさない。
「なんでそんな事、お前が知ってるんだ?」
「まず、僕は人間じゃない。そんなことは信じなくてもいいんだけど、キミのお父さんが僕の世界を創ってくれたってのはわかるってくれ」
それはわかる。きっと父さんはコイツの言うRPGを作ったみたいな事を言っていた。
「それがどうしたんだ?」
俺がそれを知っていて手間が省けたと思ったのか、管理人はどんどん話を続ける。
「だからね、僕はキミの父へ恩返しをしたいんだ。キミのお父さんがいなかったら『僕』も生まれてくることが出来なかったんだから」
こいつにとってもやっぱり父さんは偉大な人物だというわけか。生まれてから俺は父の背中を追い続けてきた。技術者としての父を尊敬し、将来の目標にもするほどだった。しかしあの日以来、やる気はさっぱり無くなってしまった。
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