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[キーーーッ……]
長い黒髪を後ろで一つにまとめ直し、手を洗い、店内に戻った。
その瞬間。
ディナータイムに変わる直前。
狭い店内に冬風が入る。
黒いハットで顔を半分隠し、ファーで口元も隠して、鼻しか見えない背の低い女の子が一人、入ってきた。
鼻が真っ赤。
175cmあるあたしから、遙か下にあるその鼻に、目がいった。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか? もうすぐディナータイムに変わりますが、よろしいでしょうか?」
明るく、笑顔で。
一応、聞かなきゃいけない事。
でも、あまりに寒そうだったから、少しでいいから暖まって欲しくて、いつも以上に気持ちをこめた。
「あたたかい…紅茶だけでも、いいですか…?」
帽子を外し、乱れた髪を手グシで直しながら彼女は言った。
期待通りの答え。
本当に寒い日だった。
曇っているうえに、風がビュービュー吹いて、寒さが一層身に染みた。
「もちろんです!! こちらのお席へどうぞ。コート、お預かりいたします。」
彼女の着ていたキャメルのコートを預かって、席に案内した。
ひんやり冷えたコートから、微かに、優しくて甘い、良い香りがした。
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