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星も見えない夜空 凍ったアスファルトに響く微かなジャズピアノの音 くすんだ窓ガラスに書かれたジャズの店という文字 持ち込み自由テーブルチャージ千円で 二軒隣の焼き鳥屋で二十本自動販売機で缶ビール 厚いガラス戸を開けると煙草の煙りが眼に沁みる ピアノ・トリオの音が外に漏れないように素早く戸を閉める 十畳ほどのボロい店 楽器が主人で客には無関心客は俺ひとりだけ いままで誰のため演奏してたの? ドライブのかかったドラムに饒舌なるベース音 ピアノは一息ついてテーブルチャージを求めてくる 俺は金を払って焼き鳥を勧める ピアノ弾きは三本食べて鍵盤に戻った 焼き鳥旨かったなぁとピアノが独り言を言うように鳴った 「ねぇ、ワルツ・フォー・デビー」やってよ 焼き鳥にビールを飲みながら俺が言う 「いいけれど、ビル・エバンスのようにゃ弾かないよ」 トリオがさりげなくテーマを弾きはじめる ピアノの音が囁きベースが啜り泣く デビーって誰だい?俺の可愛い姪っ子さ。俺の姪も可愛いぜ、ドラムがシンバルを鳴らす 自慢話に花が咲き気がつきゃ焼き鳥もビールも空 「また今度」ガラス戸を開け外に出る
星も見えない夜空 凍ったアスファルトに ジャズピアノの音が聴こえる・・・
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