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玄関を出て、自転車をとりに行く前に、愛犬にきちんとさよならを伝えた。
もう帰ってこないよ。
聞こえない位の小さな声で囁いて、抱きしめた。
何も変わらない愛犬は、ぺろっと私を舐めて、私にぴたりと寄り添ったまま動かなかった。
いつもそうだったね。
私がひどく殴られて泣いた日は、何も言わなくてもいつも、傍に来てじっとおすわりして、私を見上げてた。
あんたしか私の味方はいないんだね。
何度も何度も泣きながら、口にしてきたその言葉も最後。
そっと愛犬から離れ、自転車にまたがり、振り向けないよう力強くこいだ。
涙が溢れてくる。
嗚咽をこらえながら、何でこうなったんだと叫んだ。
その言葉は車の騒音に、虚しく掻き消された。
携帯電話なんか持たされていなかったから、公衆電話に駆け込み、保健室の先生に緊急用だと、渡されたテレフォンカードで、 先生の携帯に電話をかけた。
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