煮干し

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3 一分からとぼとぼと家まで歩いた。家につく前に猫の親子を見た、猫の子供は目が悪いらしくフラフラしていて、それを庇うように猫の父は肩を貸し、子を連れ添った。余りにもふがいなく見えた。 暗い中、電信柱の光を頼りに歩いた。そのうち家に着いた。ただいま、と声を出したが勿論返答はない。玄関に靴を脱いだ、そしたら玄関を上がり台所の電気を点ける。私は息子の部屋のドアを開けその母親似であろうつり目と癖毛の間の、広いおでこにいつも通り唇を添わせた。 そうして眠っている息子に手をかけた。 そして、真っ赤な唇をした妻を見た。静かに眠っている。そして静かに広がる世界に目を向けた。すっと臭いがしたゆで卵の香り息子が大好きなゆで卵だ。 私は冷蔵庫からビールを取り出し、冷蔵庫からなにか当てがないか探した。勿論すぐに見つかった。息子が大好きなゆで卵。 ステンレスのガスレンジにガンッと勢いよくぶつける、そうすると殻はひびを作るそこからパラパラと殻を破り、艶々とした白身を楽しみにするようにゆっくり慎重に取る。お楽しみの剥き終わりだ、そうすると塩をかける。私は大きくかぶりつく。 実に美味しいただそれだけだ。
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