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肩を竦め、口端を軽く吊り上げられた。栓を開けて盃に注ぐ。こいつのは持参してきたやつ。俺の二倍くらいはある。
「そういえば君の妹はどうした。いつもなら私が来たら隣に座っていたろう」
満月を見つめたまま、俺に視線を合わせずに言葉を飛ばす。三角座りと胡座が混ざった座り方はいつも通り。
俺も満月を見つめたまま、酒を呑んでぽつりと呟いた。
「死んだよ」
「……。……そうかい」
その時盗み見た彼女の表情は、今まで見たことのない顔だった。いつもの微笑の中に、寂しさや哀しさ、色んな感情が詰め込まれていた。俺もきっと、似たような表情をしていたかもしれない。
「少年は悲しくないのかい」
「……俺ももう三十だ」
「……そうだったね」
何で死んだとか、どんな様子だったとか、彼女は何も訊こうとしなかった。きっと、俺の胸中を見透かしていたんだろう。だからこそ、ありがたかった。
「次はいつ満月かな」
「さあな」
「今度は月の酒も持ってきてあげるよ」
「いらねえよ」
「そう云うな。大サービスだぞ」
「はいはい」
彼女が取ろうとしていた最後の団子を奪い取る形でぱくり。彼女は膨れっ面になっていた。月に住む人ってのはこうも表情豊かなのか。
「とっときと云うだけあって美味いね」
「……」
酒は気付けば残り僅かだった。俺は殆ど呑んじゃいないっていうのに。
……まあ、いいか。
「少年」
「何だ」
「月が綺麗だね」
「……ああ」
綺麗だ。本当に。
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