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「たく、慣れないことはするもんじゃないな…」
その頃ミサは1人和室の中で毒づいていた。
慣れないこと…それは彼が今やっているビンテージのアコースティックギターのチューニングのことではない。
確かにそれも普段エレキギターばかり弾いている彼にとっては面倒な作業だった。
が、基本は同種の弦楽器。慣れるのに大した時間はかからない。
強いて言えば音を鳴らしすぎて近隣の迷惑にならないようにするのが真新しいことだろう。
(ま、似たようなことは前の学校でもやってたんだけど)
授業中の生徒に感づかれないように短音を重ねてのチューニング。
彼はそれを何となく思い出しながら十円玉で弦を弾いた。
ボンボン…ギィィーン…ーン…
「う…これはまた素晴らしい狂い具合」
あまり使わなかったせいだろう。
元からビンテージだった中古のギターは更に黒ずみ、テイルピースは錆びて回りが悪く、弦は今にも切れそうだ。
当然音も逆に前衛的な演奏ができそうなほど狂いに狂っている。
しかし今更修理に出せるわけもない。ミサは渋々ペンチで弦を張り替え始めた。
「朝はおにぎり作り。昼はオンボロギターの修理か。…歌詞にできそうだな」
そんな朝の慣れないことの結果、太一の機嫌も多少は良くなるだろう。
昨日のアレは流石に自棄になりすぎたと、彼は若干反省している。
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