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「さて、こんなもんかな?」
ミサは張り直したばかりでまだ錆止めの油が薄く乗った弦を弾いた。
ミョーンという締まりのない高音が狭い座敷に木霊する。
ミサは徐々に弦の張りを強めながら弦を弾いていく。
チューニングメーター、音叉無くして常人には分からない僅かな音程のズレ。ビブラートの違い。
それら一つ一つを改善していくのだ。
ギィィーン……ビンビン…イィーン
チューニングに合わせて音が段々と洗練されていく。
そして、それが最大という所まで来た時。リズムのない単音は曲に変わった。
それはいつものロックテイストの曲調だが音そのものに激しさはなく、オルゴールのような緩く優しい旋律を奏でていく。
弦から弾き出された空気の振動は無音の森を彩った。
障子は敢えて開けている。
「……いい感じだ。これなら明日もいける」
「失礼します~」
「女将さん?」
戸がゆっくりと開き若女将が顔をのぞかせる。
「すみません、うるさかったですか?」
「いえいえ。むしろ聴き入ってましたよ。お上手なんですね」
「どうも」
「後、テントとおにぎり届けておきましたよ」
「ありがとうございます」
「ふふ。それでは…ああそれと、今日は本当に天気がよいので外に出てみません?せっかく遠くからお出になられたのに」
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