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ミサは「いえ、お気遣いなく」と言ってチューニングに戻った。
別段外に出るのが億劫なわけではない。
紫外線も気にならないし、時期的にも虫さされに注意する必要はないからだ。
強いて言うならばその理由は『眠い』という簡潔なものだろう。
実を言うとミサは昨日からほとんど寝ていなかった。
勿論それは刻々と迫る常盤沢江の死に対するプレッシャーのせいでもあるが、一番は潟滝太一の影響のせいだった。
「……」
ミサは自他共に認める孤独な人間だ。
そうであったし、自らそうしてきた。
しかしつい最近現れたあの少年はズカズカと人の事情に突っ込んできてはああだこうだと好き勝手なことを言う。
それは今日までの日常でも同様だった。
目の前で鼻歌を歌ったり、宿前で絶望的な表情を浮かべたりと。
ミサにとってはそれなりに新鮮なことが多かった。
とて、それは鬱陶しいだけのことで、掛け替えのない思い出というほど大それたモノではない。
だが彼は確かに感じていた。
思い込みかもしれないがしかし、ポッカリと心のどこかに空間が空いた気がした。
まるで友達を失ったような、そんな感覚。
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