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自然に触れるのは心のケアに繋がる。
そう医者に勧められて娘と一緒に来たのが小鳥遊川だった。
「……」
常盤沢江は現実と非現実の定まらない意識で森の散歩コースを散策していた。
服装はタンクトップと七分袖の重ね着にキュロットスカート。
いずれも暖色系でまとめて格好だけでも明るくしようと勤めていた。
(確かに…落ち着くかも)
空気は澄んでいるし、野鳥のさえずりが心地よい。
どこからか流れる妙なギターの音も不思議と安らぎを与えてくれた。
「そういえば……」
今朝から娘の姿がない。また川に遊びに?
「……違う」
きっと私に愛想を尽かしてどこかに行ってしまったに違いない。ああそうだ。
単身赴任と言ったっきり姿を眩ましたあの人みたいに。
自立したいと言ったっきり大学の寮から帰って来ないあの子みたいに。
きっと娘も私の元を離れていってしまったのだ。
ああなんて自分は醜い人間なんだろう。
醜悪で無愛想で愚鈍で痴情で不純などうしようもない駄目人間だ。
生きている価値もない。娘が離れてしまうのも仕方がない。
いっそのこと死んでしまった方が良いのかもしれない。
そうすればみんな幸せめでたしめでたし。
「--っっ!!」
衝動的に常盤沢江は手提げから剃刀の刃を取り出した。
一瞬の躊躇いもなくそれを左の手首に押し付ける。
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