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優奈は何やら考え込みながらルーズリーフにペンを走らせた。
書くことを真剣に考えながら談話室(和室)の机にがっついているらしい。
「んーと……えと…」
「あんま難しく考えなくて良い。素直な気持ちを書いてくんだ」
「それが難しいの」
「うまく書こうと意識しちまうのが駄目なんだって」
「むぅ……」
太一は机の反対側の座布団に座ってアドバイスを出していった。
『思いを伝えることは人の心を動かす』
それは学校の道徳の授業から始まり、いつの間にか彼の持論になったものだった。
特に感謝の気持ちはその作用が大きい。
普段は頑固一徹で通している父親が、娘の結婚式披露宴で読まれる手紙に号泣することなど良い例だろう。
それは家族にしろ親友にしろ恋人にしろ、関係が深ければ深いほど強くなる。
改めて伝えられる感謝の気持ちは人の心の垣根を越えて芯をとらえるのだ。
と言えどもそれがうつ病に効くかは分からない。
見当違いなことかもしれない。
だが、優奈の常盤沢江に対する感謝の気持ちは無碍になるようなものではないはずだ。
むしろ起死回生の一手にもなり得る、優奈にしかできない作業。
それが母親に向けた感謝の手紙作りだった。
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