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後に残るのは余韻とペンの滑る音だけ。
時間が経つたびに優奈の呻き声も減っていく。
どうやら大分完成に近づいたらしい。
後は太一が誤字脱字の指摘をしてやればすむ段階のようだ。
「師匠できました!」
「おっしゃ。じゃあ見せてみ」
「せ、セクハラだー」
そう言って優奈は表裏びっしり文字が書かれたルーズリーフを腹に隠した。
やはりそういうのは子供だからといっても他人に見せるのは恥ずかしいのかもしれない。
…正面から丸見えだったが。
「分かったよ。近いうちに渡しとくんだぞそれ」
そう言って太一はゆっくりと立ち上がった。
「あれ?もう解散?」
「もうすぐ夜だからな。さすがに昼おにぎりだけじゃ足りねーだろ」
「い、言われてみればお腹空いたかも…」
縮こまっていく優奈を笑いながら「じゃあまた明日な」と太一は談話室を出ようと靴を履いた。
そこでもう一度呼び止められる。
「師匠。最後になんて書いたらいいかな?」
「んー、まだ書いてねーの?草々とか?」
「違う違うー。シメの言葉的なやつ」
「それくらい自分で…まぁ俺なら『お母さん大好き』とか『ずっと一緒だよ』とか書くかな」
「ん、分かった!バイバイ師匠」
手を振る優奈を後目に「ん…」と頷いて太一は談話室を出た。
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