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「見ず知らずの君だからこそ言うけどね、俺だってそういう人達を心底救いたい……ってガキの頃はそう思ってたよ」
“そいつ”の言葉は平坦だが、まるで分厚い鉄板のように冷たくて重い。
流石に太一も『ガキの頃』という言葉を聞いてゾッとした。
未だに半信半疑だが、もし本当なら彼は小さな頃から人の死を今みたいにたくさん、それこそ『死を運ぶ』なんて言われるほど見てきたに違いない。
中には今日のような悲惨な死もあったはずだ。
……俺なら確実に狂っている。
「ま、それも今となっちゃ昔の話だけどね……」
微かに漂う哀愁が太一の怒りを削いでいく。
「それは……大変だったな」
「おや?さっきまでキレてたのにもう同情かい?」
「んなっ!」
「冗談だよ冗談」
“そいつ”はそう言って一笑するとくるりと向きを変えた。
「お、おい」
「待ちゃしませんよ。悪いクセで流石に喋りすぎた。あ、付いてくるとかもなしで。俺は孤独な男なんだ」
彼の足は止まらない。
が、急に何かを思い出したように首だけ振り返った。
「そうそう、ライブ見てくれてありがとう。またどこかでやるだろうから」
「……潟滝太一」
「ん?」
ダメ元で言ってみる。
「名前だよ名前!ほら、サンハイ!!」
「……ジェニファー山田」
「偽名だろ」
「うん、まあ」
彼は含み笑いをしながら告げる。
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