LIVE5/Voice and cry1/2

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「線路はつーづくーよー フーフフンフンフーン」  ガタンゴトンと景気の良い走行音を鳴らしながら、赤塗りご当地列車は果てしなく続く線路を進む。  辺りの田園風景からか、日当たりの心地よさからか、潟滝太一は電車の窓辺に肘を置き鼻歌を歌っていた。 「…ご機嫌だねぇ、潟滝君」  その向かいの席にはやや呆れ顔のミサが座っていた。 「都会っ子にとってこういう風景は結構新鮮でして」 「分からなくはないけど、他のお客さんに迷惑かけちゃだめだよ?」 「何?あんたお母さん?」 「そうだね。だから母は敬うように。敬語使え敬語」 「…今更だけど年いくつ?」 「来年の今頃は17」 「同い年じゃねーか」  『線路は続くよどこまでも』とはよく言ったもので、かれこれ二時間近く二人は取り留めのない会話を交わしていた。  現在午前10時余分。  目的地の最寄りの無人駅には後30分もすれば着くはずだ。 「ま、それはさておき…ふーん。まあ確かに素晴らしいロケーション?うん」  狭く勾配の激しい日本の地理条件において、遙か地平線までとは行かないが、線路は山岳地帯に突き当たるまで延々と広がる田園地帯に囲まれていた。  まだ春先、水もひかれていないその光景はいささか寂しい。  新たに芽吹く生命も今はまだ乏しいようだ。  節の少ないつくしが春の到来を今か今かと待ち、風になびかれている。
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