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「あー…そういや他にも列車系の歌あったっけ」
「……」
「ドナドナドーナードーナー…なんか違うな」
「……」
思いついたフレーズを好き勝手歌い続ける太一をミサは冷めた目で見つつ嘆息した。
先ほどから彼の頭の中は『どうしてこんな奴を連れて行かなくちゃならないのか?』ということで埋め尽くされている。
そもそも団体行動を極端に拒んできた彼にとって、太一との相席はかなりのストレスになっていた。
「…はぁ」
思わず彼はため息をつく。
もう何度ついたか途中から数えるのをやめたくらいだ。
「おいおいまたため息かよ?あんまりすると幸福が逃げてくぜ?」
「そう思うなら返してくれ。俺の幸福」
と言いつつ、ミサは確かにとも思う。
幸福が逃げて行った瞬間。
それはまさに昨日のことだった。
††††††††††††††
彼らが電車に揺られる一日前の夜。
ミサはいつかの喫茶店の前でライブの準備に取りかかっていた。
ここでのライブは本日で五回目。
今まで全てのライブが好評で、まだ開店して間もないこの店も『ミュージシャンがいる喫茶店』として街にそれなりに浸透してきたらしい。
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