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その中には当然エキストラである通行人も含まれている。
街歩く全ての足が立ち止まり、一瞬意識を端から持って行かれる。いつものことだ。
そして一瞬の間が空いてエキストラはざわめき立つのも毎度のことだった。
「……何だ?路上ライブ?」「ヤケにうるさいな」「エレキギターって路上で鳴らして良かったっけ?」「許可取ってんだろ?」「…っておい!ここってあれじゃね、ミュージシャンの店とかいう……」
初めのざわめきの大半はただの好奇と爆音による不快感で占められている。
何故ならばまだ爆音でエキストラの興味を集めたに過ぎないからだ。
いわゆる“客寄せ”。
別にそれは何だって良いと彼は思っている。
派手に爆音を鳴らすのも可。
初めからクライマックスの曲を弾くのも可。
何ならば酔っ払いとの口論でだって注目は引ける。
「…さて、頃合いかな」
呟きとともに爆音がピタリと止まる。
次いで、環境、集団心理の相乗効果によりざわめきも消え失せる。
後には遠くで有線放送のリクエスト曲だけが流れる空間が残った。
「ゴホン」
静寂をミサの大袈裟な咳払いが吹き飛ばす。
「…えぇ~皆さん、最初で最後のMCです。リクエストがあれば今の内に……ないなら始めますよ?
Listen.One man live……」
言いながらギブソンの弦はゆるりと弾かれる。
ギィィーーン……と単音が響き、
聞き入る隙を与えないままに張り上げられた爆音とミドルボイスが観客の鼓膜を揺さぶった。
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