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「それはそうと、ミサだったかしら?変な名前」
スプーンを口にくわえながら、桧子は相変わらずの平坦な声で呟いた。
「ん……そうかい?結構カッコいいと思ってるんだけど」
「それが“死者ミサ”や“鎮魂ミサ曲”を表す言葉なら」
彼女はクリームを一口分スプーンですくい上げながら矢継ぎ早に繋げた。
「でもあなたのそれはどうせ英単語“mass”から来てるから変。意味……まで言わせないで」
「……ふん」
ミサは少しバツが悪そうに鼻を鳴らすと「まあね」と言った。
そのまま天井を見上げる。
一連の動作は彼が何かに困ったときやどうしようもなく不快になったときにする行動だ。
見上げたその先、シャンデリアが鈍い金属光沢を放つ。
金属特有の淡い光を彼は事も無げに見つめた。
「孤独はやっぱり辛い」
同時に平坦な声がミサの耳を揺さぶる。
「…?いきなり何だい?」
「あなたの心を代弁したまで」
「まさかまさか」
首を振って桧子を一瞥する。
「俺は孤独が嫌いじゃないし、むしろセールスポイントだとも思ってる」
言いながらミサは思い出す。学校を自主退学したりライブ中にやってきたスカウトを全て突っぱねたり…。
自分は努めて孤独であろうとしたことを。
「意味不明」
「君に言われたくないんだが」
「私は孤独が怖い」
きっぱり彼女は言い切った。
「あなたもそろそろそう思ってる頃だと思って。だから会いに来た」
「……ふーん」
とミサはつまらなそうに相槌を打った。
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