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「…ふふ」
カランとミサがつついた氷が音を鳴らし、ほぼ同時に桧子は含み笑いをこぼした。
嘲笑とも失笑とも、何とも言えない無機質な笑い。
恐らく昔からの知り合いである彼くらいにしか彼女の胸の内理解できないだろう。
「思考回路沸騰中に悪いけど、そんなつまらない理由じゃ私は動かない」
「だろうね…はぁ」
何か心当たりがあるのか、ため息混じりにミサは氷しか入っていないコップを傾ける。
カランカランと氷が踊った。
「てことはまたアレかい?」
「そう。アレ」
「やめた方がいい。断言する。三日と保たないよ。取り分け君の“同志”は初めこそ意気揚々でも…いや、だからこそ結末に耐えられない」
「それは…分かってる」
赤の他人からすると何を言っているのか分かりかねる会話。
ミサの表情は桧子程ではないがやはり薄く、しかし確固たる真剣身と憐れみをたたえている。
他方も同じく遠い目でゴシック調の窓から外の雑多を眺めていた。
奇妙ななりとはいえ一応はオープンカフェ。
外の雑多はリアルタイムで彼らに現実を見せつける。
「でも今回は大丈夫。今回は“同志”じゃないから」
「あれ?君“同志”以外にも友人が?」
「失礼な。知り合いくらいはいる」
えっへんと言わんばかりにふんぞり返る彼女を「胸張っちゃだめでしょ」とミサが窘めた。
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