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自ら案内役を買って出てくれた(渋々だろうが)ミサの後を追いながら、太一の視線は自然彼の後ろ姿に集中していた。
大理石のように塗装された床でコツコツと軽い足音を立てる様は、紳士然として威風堂々。
……という言葉は不適で、むしろ出番待ちの道化師のような倦怠感を纏っている。
同時に目を引かれるのはその肩にかかった飾りっ気のない黒のギターケースだ。
持ち物がそれとスポーツ仕様の旅行鞄だけ、アンプらしき物がない所からして中身は前に見たエレキギターではないだろう。
アコースティック、フォーク…太一はその辺りよく分からないから深読みはできない。
「--潟滝君、大丈夫かい?」
「…!え、あぁ」
いきなり振り返ったミサに太一はびくりと体を震わせた。
「いや、一応ね」
そしてほぼ同時にその言葉の真意に気づく。
彼らがいたのは件の駅の2番ホーム。
以前…と言ってもほんの数日前に死亡事故があった場所だ。
ミサが太一を心配したのはそのためである。
すっかり片付けられているとは言え、ここで起きた惨状が消えたのではない。
「大丈夫だ。…今はもう」
言いながらも太一の脳内には今でもあの悲劇が繰り返されることがあった。
夢に現れると本当にタチが悪く、その日の学校で永田に心配されることも少なくない。
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