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以来太一はこの場所には近づかず、別の駅を使用(その駅でも最近酔っ払いが事故で亡くなったらしい)している。
その経緯もあって彼の足は今にも卒倒しそうなほど震え、手は汗でぐっしょりと湿った。
が、そんな弱気は何となくミサには見せたくない。
そんな気持ちから太一はわざとらしく気丈に振る舞った。
完璧な強がりだがそれで結構。
自分の弱い所は他人に見せたくないという気持ちは男としての殊勝な性だろうか。
一方ミサも「そうかい」と言っただけで、そこからは割愛できるほどのスムーズな流れで時間が経過していった。
やってきた電車に乗り切符を切り、二回の乗り継ぎを経て現時刻10時余分に戻る。
「ふーんふんふん…」
「貸し切りライブ中悪いんだけど、」
ミサは愉悦半分強がり半分由来の太一の鼻歌を止めた。
太一も素直にどもり、後にはガタンゴトンと粋な音が残る。
「結局君は桧子から何も聞いてなかったってことかい?」
続けざまに痛い詰問。太一はコクリと頷いた。
「行き先も、ライブのことも、何で俺に同行させられるのかってことも?」
太一はコクリと頷いた。
「……そもそも何故桧子が自分の家の場所知ってたのかとか不思議に思わなかったのか?」
「そ、それは盲点だった!!」
「……はぁ」
ミサは頭を抱え「誰から聞いた…まさかストーカー?」とか嘆く太一をなおざりに見ながら深いため息をついた。
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